みんなの金融リテラシー

大学生のための金融リテラシー教育

大学で実際に行われた授業から、金融リテラシー教育の取り組みを紹介します。

お金のプロが教える、意外な「本当に必要な貯金額」

貯蓄をしても安心感は得られない…ならば、発想を変えよう

なぜ女性は貯蓄に積極的なのか?

女性からの相談で圧倒的に多いのが、「どれくらい貯めておけばよいの?」というもの。その答えは、いざという時のための生活費として生活費の半年から1年分や、夢を叶えるためのお金が中心になります。人によって異なりますが、おおまかには200〜300万円あれば、基本的に当面は十分でしょう。

でも実際には、すでに手元に300万円以上ある、かつ、特に近いうちに使う予定もないという人でも、「何となく不安だからもっと貯蓄しなければ」と感じていることが多いのです。1000万円あってもまだ不安だという人もいます。「貯めなきゃ」という焦りは、貯蓄があるなしにかかわらず、多くの女性が抱えているのです。

貯蓄は不安を消し去るための手段

「何となく不安」な心理には、女性の社会的な立場や高齢化が影響していると思います。最近は「下流老人」「老後破産」といった言葉が躍り、社会全体に老後資金への不安が高まっています。女性は男性よりも長生きで、2人に1人は90歳を迎えるといわれていますから、より強い危機感があるようです。20代ですでに老後資金を貯めている人も珍しくありません。

老後資金は、仮に60歳で退職してから90歳まで生きると、生活費だけでも約5000万円は必要です。ここから公的年金の収入を差し引いても、退職金や貯蓄で約2000万円が必要です。30歳から60歳までの30年間で貯めるなら、年間約66万円、月に5万円以上になります(※)。

もしずっとシングルだったら、この老後資金を自分で工面せねばなりません。結婚すれば夫婦で必要な老後資金は少々変わるとはいえ、妊娠・出産をすれば仕事に制約が出て収入ダウンのリスクがあります。また、女性を取り巻く雇用環境は改善傾向にあるとはいえ、いまだに残る賃金格差などのハンデもあります。そんななかで稼ぎ続けられるのかを考えると、老後への貯蓄は気が遠くなる道のりに感じられます。これが、「働けるうちに稼いで貯めておかねば」という切迫感につながるのでしょう。女性にとっての貯蓄は、先行き不透明な人生の不安への、ひとつの対抗策なのかもしれません。

「貯めなきゃ」の焦りの原因は貯蓄がないことではない

実際に、不安を強く感じている人ほど、がんばって貯蓄しています。ある30代の女性は、「人生の最低最悪のケースでいくらかかるかを想定して、それを目標に貯めたい」と相談に来ました。老後資金のために約2000万円、介護に備えて約300万円、病気に備えて約100万円〜300万円など、考えられるリスクを挙げていくと、想定される必要資金はどんどん膨れ上がっていきました。しかし、いくら最低最悪を想定しても、想定外のことは起こりえます。いくら貯めても、不安がゼロになることはないのです。

つまり、「貯めなきゃ」という焦りの原因は、「お金がないこと」ではなく、「人生の変動リスク」なのです。

「貯める」ばかりでなく「増やす」ための戦略も考えよう

そこでおすすめしたいのが、「貯める」よりも「増やす」発想です。「増やす」といっても、必ずしも株式投資などをせよということではありません。もちろんチャレンジするのもひとつですが、お金を生み出す自分を育てるので

す。たとえば、万が一いまの会社を辞めても、専門性を活かして別の会社に転職できる、ITのスキルを活かしてクラウドで仕事ができる、趣味のパン作りの腕を活かして自宅で教室を開ける、といった強みを身につけるなどです。私はかつて、想定外のタイミングで会社を辞めてしまったことがあるのですが、書く力や話す力のスキルアップをしていたおかげで、執筆や講師の仕事で食いつなぐことができました。

今の会社や住む場所、そして経済や社会の情勢が想定外の方向へ変わったとき、貯蓄があるに越したことはありません。ですが、すべてを貯蓄だけでなんとかしようとするよりも、収入が続けば負担は軽くなります。人生のステージが変わっても稼げる自分を育てることは、将来のお金を増やすのと同じ効果があるのです。

長い人生には計画性が大切です。一方で、長いからこそ、長期戦に勝ち抜く経済力をつけるためには「貯める」以外の方法も大切です。いま、コツコツと貯蓄をしている人は、ぜひ日頃の努力を自分で認めてあげてください。そして、貯蓄しなきゃという焦りを一度脇に置いてみてください。将来のお金を生み出す力をつけるという視点でお金に向き合ってみると、不安な気持ちが少し軽くなるかもしれません。

※生活費約15万円/月、60歳〜90歳まで30年間の合計で概算しています。公的年金で受け取れる金額は12万円/月、65歳〜90歳の25年間受け取ると仮定。(年金制度基礎調査平成23年「54性別・世帯類型別・不動産有無別 本人及び配偶者の平均公的年金額」より、厚生年金加入の女性の平均額を使用)

クレジット

文/加藤梨里

プロフィール

加藤梨里(かとう・りり)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者) マネーステップオフィス株式会社代表 保険会社、銀行、FP会社を経て独立開業。家計、保険などお金のセミナー、執筆、相談を行う。働く女性のライフプランと健康にも関心があり、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任助教も務める。

マネーステップオフィス:http://moneystep.co/